試作
「試作(しさく)」とは、新しい製品や部品を開発する際に、本格的な量産に入る前に試しに作る工程・製品のことを指します。英語では prototyping または prototype と言います。
製品の見た目や機能、強度、製造方法の確認など、製造するうえで必ず必要と言っても過言ではありません。
試作の種類
「試作」には目的や工程に応じていくつかの種類があります。以下に主な種類を整理して紹介します。
1. 外観試作(デザイン試作)
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目的:見た目やデザイン、サイズ感、使用感を確認する。
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特徴:見た目重視、中身はダミーでOKな場合も多い。
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例:筐体モックアップ、3Dプリンタによる形状確認など。
2. 機能試作
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目的:実際の動作や構造、性能を確認する。
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特徴:見た目よりも機能・構造が重要。量産と同じ材料・部品を使う場合も。
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例:動作確認用のプロトタイプ、センサー付きの評価モデルなど。
3. 工法検討試作(加工検証)
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目的:量産時の加工方法・工法の検証。
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特徴:切削・射出成形・板金などの適性を見極めるための試作。
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例:異なる製造法で同じ形状を作り、精度やコストを比較する。
4. 材料評価試作
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目的:使用する材料の強度・耐熱性・耐薬品性などを評価。
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特徴:材料変更時や、複数候補を比較する場合に行う。
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例:異なる樹脂・金属での試作、試験機での評価用サンプルなど。
5. ユーザーテスト用試作
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目的:実際の使用者に試してもらい、使い勝手や改善点を把握する。
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特徴:一部の試作品を顧客に提供し、フィードバックを得る。
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例:製品テストモニターへの配布、展示会用の実演モデルなど。
6. 量産前最終試作(プレ量産試作)
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目的:量産前の最終確認。工程、部品調達、組立手順などを検証。
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特徴:量産と同じ材料・工法・設備を使い、品質や歩留まりを確認。
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例:量産と同じラインで数十~数百個作る。
試作材料の種類
試作で使われる材料は、試作の目的や完成品の材質、コスト・納期などによって選ばれます。以下に、試作に使われる代表的な材料を種類別に整理します。
🧱 1. プラスチック材料
主に外観試作や軽負荷部品に使用
材料名 | 特徴 | 用途例 |
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ABS | 加工しやすく、安価 | モックアップ、外装部品 |
アクリル (PMMA) | 透明で美しい | 透明カバー、表示パネル |
ポリカーボネート (PC) | 強度・耐熱性あり | 強度確認用のケース |
ナイロン (PA) | 摩耗に強い | ギア、小型機構部品 |
POM(ジュラコン) | 機械的強度・寸法安定性が高い | 精密機構部品の試作 |
🔩 2. 金属材料
強度や熱・構造確認のために使用
材料名 | 特徴 | 用途例 |
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アルミニウム (A5052など) | 軽くて加工性良好 | 筐体、ヒートシンク |
鉄(SS400, S45Cなど) | 強度重視 | 機構部品、シャフト |
ステンレス (SUS304など) | 耐食性あり | 医療機器、食品機器 |
真鍮・銅 | 電気伝導性良好 | 電極部品、コネクタ部品 |
🧪 3. ゴム・エラストマー材料
柔軟性やシール性の確認に使用
材料名 | 特徴 | 用途例 |
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シリコンゴム | 柔らかくて耐熱性高い | パッキン、クッション部品 |
TPU(熱可塑性ポリウレタン) | 柔軟で耐摩耗性がある | 柔軟カバー、バンパー |
🧱 4. 樹脂の3Dプリンタ用素材
素早く形状を確認したいときに便利
材料名 | 特徴 | 用途例 |
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PLA | 環境にやさしく、低価格 | デザイン確認用モデル |
ABSライク樹脂 | 加工性・見た目が良い | 外観試作 |
ナイロン系樹脂 | 耐久性が高い | 機構試作パーツ |
光硬化樹脂(SLA/DLP) | 精密で滑らか | 精密モデル、微細部品 |
🎯 5. 特殊・評価用材料
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炭素繊維(CFRP)やガラス繊維(GFRP):軽量・高剛性が必要な場合。
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発泡スチロールやウレタン:初期のモックや原寸大モデル。
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試作専用合板や紙:工業デザイン初期段階など。
試作方法の種類
試作方法には、目的(外観確認、機能確認、量産検討など)や材質・数量に応じて、さまざまな種類があります。以下に代表的な試作方法を「加工手法別」に分類して紹介します。
🔧 1. 切削加工(マシニング・旋盤など)
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概要:金属や樹脂のブロックから削り出して形を作る
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特徴:
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精度が高い
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1個から製作可能
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材質の選択肢が多い(アルミ、樹脂、ステンレスなど)
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向いている用途:機能試作、構造確認
🖨️ 2. 3Dプリンター(積層造形)
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概要:樹脂や金属を積み重ねて形を作る
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主な方式:
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FDM(熱溶解積層)…PLA/ABSなどで安価・簡易
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SLA/DLP(光造形)…精密・滑らかな表面
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SLS(粉末焼結)…強度が高く複雑な形状にも対応
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特徴:
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複雑形状が得意
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金型不要、短納期
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小ロット向き
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向いている用途:デザイン確認、形状試作、ユーザーテスト
🧰 3. 真空注型(ウレタンキャスティング)
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概要:マスターモデルを型にして、樹脂を流し込んで複製
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特徴:
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少量の量産が可能(10~30個程度)
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樹脂製品の模擬品に向いている
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材質選択によりゴムライクにも硬質にもできる
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向いている用途:外観・機能試作、小ロット検証
🔩 4. 板金加工(レーザー・曲げ・溶接など)
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概要:金属板を切断・曲げ・溶接して部品を作成
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特徴:
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金属筐体や構造部品の試作に適している
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比較的短納期で製作可能
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向いている用途:筐体、フレームの試作
🧪 5. 射出成形(試作金型)
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概要:金型を作って、樹脂を射出して成形
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特徴:
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量産と同じ成形方法で確認できる
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初期費用(型代)は高いが、1個あたりは安価
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向いている用途:量産直前の試作(プレ量産)
🧱 6. 木型・発泡モデル・簡易成形
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概要:木材や発泡体を使ってざっくり形状確認
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特徴:
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初期段階のアイデア確認に最適
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安価で加工が簡単
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向いている用途:サイズ感確認、展示用モック
💡 まとめ(選定の目安)
試作方法 | 精度 | 強度 | コスト | 納期 | 数量適正 |
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切削加工 | ◎ | ◎ | △ | △ | 1個〜少量 |
3Dプリンタ | △〜◎ | △ | ○ | ◎ | 1個〜少量 |
真空注型 | ○ | ○ | △ | △ | 10〜30個 |
板金加工 | ○ | ◎ | ○ | ○ | 1個〜中量 |
射出成形 | ◎ | ◎ | ×(型代高) | △ | 100個以上 |
木型・発泡 | △ | × | ◎ | ◎ | 試作初期 |
試作のメリット・デメリット
試作には製品開発の質を高める多くのメリットがある一方で、コストや時間の負担といったデメリットも存在します。以下に、試作のメリット・デメリットをわかりやすく整理します。
✅ 試作のメリット
項目 | 内容 |
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1. 不具合の早期発見 | 設計ミス・寸法誤差・干渉などを実物で確認でき、手戻りを防げる。 |
2. デザイン・使い勝手の検証 | 実物を手に取ることで、見た目・サイズ感・操作性などの評価ができる。 |
3. 顧客・社内の理解が得やすい | 図面よりも実物のほうがプレゼンやレビューに説得力がある。 |
4. 製造工程の検討ができる | 加工しにくい箇所、組立のしやすさなどを事前に確認可能。 |
5. 材料や工法の選定に役立つ | 実際に使う材料や工法の比較試験ができる。 |
6. 商品力の向上に貢献 | 機能や品質を確認・改善することで、完成度の高い製品につながる。 |
❌ 試作のデメリット
項目 | 内容 |
---|---|
1. コストがかかる | 単品製作や専用の治具・型などは高額になることがある。 |
2. 時間がかかる | 試作の製作、検証、修正に時間を要するため開発期間が延びることがある。 |
3. 試作品が量産と完全に同じではない | 試作方法が量産と異なると、性能や精度が本来と異なる可能性がある。 |
4. 手戻りリスクがある | 試作の結果により設計変更が必要になり、再試作が発生することも。 |
5. 試作を過信する可能性 | 試作品がうまく動いたからといって、量産で問題が出ないとは限らない。 |
💡補足:メリットを最大化し、デメリットを抑えるには?
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✅ 目的別に段階的に試作する(外観→機能→量産)
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✅ 量産と同じ条件で最終検証する
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✅ 3Dプリンタや切削など、初期段階ではコストの低い手法を使う
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✅ 試作段階から生産技術・現場を巻き込む